まるで大きなネコのように、人間に懐きじゃれ合うライオンの姿が話題だ。1人と1頭の間には、特別な信頼関係がある。死の淵にあった子ライオンと、それを救った人間の男性。彼らのかけがえのない絆は、その後も長年にわたり続いている。
場所はアフリカ南部、ボツワナ共和国にかかるカラハリ砂漠。その片隅で、雌ライオンのサーガはいまも男性と暮らしている。男性の名はヴァレンティン・グルーナーさん。現地で動物保護活動「モディサ・ワイルドライフ・プロジェクト」を共同設立した。
グルーナーさんは動画を数多く公開している。サーガとの固い絆を感じさせる光景が視聴者の琴線に触れ、世界で話題だ。
◆ライオンとの固い絆、顔をぴったり寄せ合って
ある動画ではグルーナーさんが、野外の砂地に座り込んでいる。画面手前に映り込むのは、太いしっぽだ。先端は黒くふさふさとしており、がっしりとした尻とあわせてライオンであることがわかる。ライオンが急に立ち上がり、グルーナーさんの元へ無遠慮に顔を近づけるが、グルーナーさんはまったく動じない。ライオンの顔を手で撫で、愛おしむようにコミュニケーションを取る。
このライオンこそが、並ならぬ絆で結ばれたサーガだ。幼い時分、親ライオンに見捨てられ死の瀬戸際にあったところをグルーナーさんに救われた。今では遠慮なくグルーナーさんとの触れ合いを楽しむ関係だ。
上体をグルーナーさんのひざの上に乗せ、グルーナーさんよりもずっと大きく成長した体を預ける。グルーナーさんは物怖じすることなく、よしよしとばかりに耳や胸元をさすって愛情を表現する。顔と顔をぴったりと寄せ合い、甘噛みされても動じないグルーナーさんは、サーガに全幅の信頼を置いているようだ。
日常の一コマを収めたこの動画は昨年10月、グルーナーさんのTikTokチャンネルで公開された。30秒ほどの短い動画だが、コメント欄には、「繰り返し見てる」「お父さん(飼い主)と過ごす時間が幸せそう」「男性は愛しさを感じているし、ライオンは感謝しているんだね」など温かい書き込みが寄せられている。人間とライオンの類い希な友情に、心温まる視聴者が多いようだ。
◆いつだってグルーナーさんとじゃれたい
今年2月に公開された別の動画では、裸足にTシャツとリュックサックの軽装で砂漠地帯を歩くグルーナーさんの後ろを、サーガがぴったりとつけて追っている。グルーナーさんが一歩踏み出すたび、残された方の片脚を、じゃれるようにしてサーガが前足でもてあそぶ。腰に軽くかみつくとさすがに「痛いよ!」と声を上げるグルーナーさんだが、すぐに「ほら、行くよ」と慣れたものだ。
動画は2ヶ月ほどのうちに、790万回再生された。「きっとかまってほしいんだね」「ほんと大きなネコみたい。うちの子も僕が寝ようとすると同じことをやる」など、無邪気な触れ合いに心癒やされたというコメントがみられる。
ライオンは本来、人間を捕食しうる存在であり、人間と絆を育むことなど到底考えられない。しかし、出会い方によっては、そしてその後の愛情の注ぎ方次第では、深い友情を育むことも不可能ではないようだ。グルーナーさんが自身のTikTokチャンネルで公開する300本以上の動画が、その軌跡を克明に物語る。
◆出会いの陰には悲しい過去が
1人と1頭の出会いは、10年ほど前に遡る。サーガの両親にあたるライオンたちは、揃って家畜を襲っていたところを捕獲された。親ライオンたちは野生へ復帰させるためリハビリテーション・キャンプに隔離されたが、この期間中に3〜4匹ほどの子ライオンが生まれた。母ライオンは子ライオンたちに餌を与えないばかりか、次々に殺した。
たった1匹が生き残った。サーガだ。グルーナーさんは引き取り、自身の家の隣にフェンスで囲われた保護区を作り、その中で献身的に面倒を見た。グルーナーさんは2015年、BBCに対し、「あの子が来てからもう3年になりますが、私はキャンプから出たことがありません」「時々、仕事のために一晩だけ町に行くことがありますが、それ以外は一緒にここにいるんです」と語っている。
小さいながらも気が立っていた当時のサーガをなだめるのは、並大抵の苦労ではなかった。しかし、長い年月をかけ、愛情は伝わった。今では屋外に設けられたサーガのいる広いケージを開けると、両の前足をグルーナーさんの首に回し、目を細めて親愛の表情を示す。
グルーナーさんは2021年、米NBCニュースに「とても大きなネコなのに、驚くほどおとなしいんです」と語る。「会いに行くといつも、(話題になった)あの動画のように抱きついてきます」と続け、フレンドリーで優しいサーガの性格を語っている。
◆「会いたかったよ!」親愛のまなざしで飛びかかる
すっかり成長した今も、グルーナーさんの愛情は変わらない。グルーナーさんが共同設立したモディサ・ワイルドライフ・プロジェクトは今年2月、サーガの近況をTikTokで紹介した。
グルーナーさんがケージを開けるや否や、「グー」とのどを鳴らしたサーガは両脚で飛び上がり、愛おしそうに目を細めてグルーナーさんに飛びかかる。サーガの巨体が宙を舞い、グルーナーさんの上体を覆い尽くしそのまま地面へと一緒に倒れ込むと、「クウッ」と再びのどを鳴らしながらやさしくグルーナーさんに頬ずりを繰り返す。
あるときはサーガと連れだって、誰もいない開けた草原へ。ギターをかき鳴らしながら歌い上げるグルーナーさんのそばに寄り添い、サーガはじっと耳を立てている。
ライオンは本来人間にとって危険な存在であり、動画を観ていいなと思ったとしても、決して真似をしようとしてはいけない。ライオンを娯楽目的でペットにすることのないよう、背景を知らない視聴者に対してグルーナーさんは注意を促している。子ライオンの時に巡り会って命を救い、信頼を築き上げたグルーナーさんとサーガの間には、彼らだけの特別な友情があるのだ。
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